2011年2月21日(月)08:00
【野口裕之の安全保障読本】
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 ◆「腰砕け」米国も…

 米国防総省で一部官僚・軍人が中国を「ヴォルデモート」と隠語で呼んでいる。ヴォルデモートは人気シリーズ「ハリー・ポッター」の作中に出てくる主人公最大の敵である邪悪な魔法使いだ。多くの魔法使いが「例のあの人」「名前を呼んではいけないあの人」と、恐怖のあまり実名を口に出すことをはばかるほど、強大な魔法パワーを持つ。「アジアの海」で台頭著しい中国に対する腰の引けた姿勢は、日本だけの専売特許ではないようだ。

 「ヴォルデモート現象」は、オバマ米大統領と中国の胡錦濤国家主席との首脳会談(1月)でも顕著に現れた。例えば東・南シナ海などで、中国軍の独善的海洋進出に、米国の同盟国である日本や東南アジア諸国が深く憂慮している実態に、共同声明では詳しく言及していない。米保守系メディアFOXニュースは「(歓待により)胡氏を喜ばせただけで、米国が得たものはない」と酷評した。

 伏線は昨年2月公表の「4年ごとの国防計画の見直し報告書(QDR)」にもあった。台湾有事などで、西太平洋から東シナ海に進出する米空母打撃群を阻止する、中国のアクセス拒否能力の脅威に警鐘を鳴らしたにもかかわらず、名指しを避けた。

 ◆経済面でより顕著

 経済面の「ヴォルデモート現象」は軍事面より前から起きている。米政府は米国債を大量保有する中国を米国にとっての「銀行」と位置づけているようだ。内部告発サイト、ウィキリークスによると、クリントン国務長官はオーストラリアのラッド首相(当時)との会談(一昨年3月)で、中国に強い態度で臨めない現実をこう愚痴った。

 「どのように『銀行』に対処すればよいか(困ってしまう)」

 情報の信憑(しんぴょう)性は高い。会談の1カ月前、クリントン氏は訪中するや「人権・台湾・チベット問題が他の広範な問題の解決を妨げぬよう望む」と表明。米中外相会談でも「米国は中国の人権問題に注意を払っている」としたものの「人権では世界的経済・環境・安全保障危機を変えられない」と、話題を転じる「気遣い」を見せた。

 中国の度重なる増長に対し、さすがのクリントン氏も昨年7月の記者会見では「航行の自由、アジアの海洋コモンズに対する自由なアクセス、南シナ海における国際法規順守は米国の国益である」と明言。政権内で当初主導権を握っていた「叩頭(こうとう)派」から「失望派」へと軸足を移したとも言われた。

 オバマ政権は発足当初「叩頭派」にあおられ、21世紀を米中新時代と位置付けた。メディアでも「G2(米中2国による枠組み)論」が盛んに報じられた。だが、クリントン氏は胡氏訪米前にも「G2は存在しない」と言い切った。

 もっとも「叩頭派」への復帰の可能性は否定できない。中国の軍事拡大を警戒しつつも経済・環境など地球規模の問題解決には中国の協力が不可欠だからだ。

 そもそも米国は、長い歴史・文化を有する中国に対するあこがれやコンプレクスを絶えず内包してきた。それはヴォルデモートの魔法のようにいまなお、米国を縛り続けている。



情報提供:news.goo.ne.jp/


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